届かない声




前回に引き続き、この件も
ロバーツ牧師と霊媒師エルウィン・Rが
関与した
ものである。

画像


英国ウェールズのアングルシ島で暮らしていた
農業を営むブライアンと妻のベサン

2人目の子供が産まれたとき、
家計が逼迫してきたので
家業だった農業をやめ、安定した賃金を求めて
工場へ働きに出ることにした。

そんな生活を送っていた、ある夜。

ブライアンが大きくうなだれて帰ってきたので、
ベサンが「何かあったの?」と軽く聞いてみたところ、
とんでもない内容を夫から聞かされた。

「雌牛を数頭、ビルスウェルズまで運んでくれと頼まれて、
家計の足しになると思い引き受けたが
運悪く帰る途中で警官に捕まった。
車の税の納付期限はとっくに切れているし、
保険は解約しちまってるから、
きっと起訴される・・・。
どっさり罰金を払えって言われるだろう。
でも・・・でも・・・、そんな金、どこを探せばいいんだか・・・!」

頭を抱えてがっくり下を向いたまま、
泣きそうな声になってションボリしている夫を見て
ベサンはカッとし、ブライアンを罵倒
した。

「バカ!とんま!!こんなことなら
そこらへんのマヌケな男と結婚したほうが良かった!
そのほうが素直に金を貯めてくれて
今頃わたしは苦労せず幸せになっていたのに!!」
 
そう激しく言い捨てた彼女は寝室へ閉じこもってしまった。


生活費のやりくりで
毎日疲弊していた神経は、なかなか興奮から冷めない。
それでもなんとか息を整えながら
自分を落ち着かせようと葛藤していた、

その約10分後―――。

突然、大きな猟銃の音が
納屋の方向から響いて
きた。

吃驚したベサンが、急いで納屋の方へ走ってゆくと
納屋の隣にある小牧場(鶏や七面鳥を放し飼いしていたスペース)
猟銃を傍らに抱え、血塗れで横たわっている
変わり果てた夫の姿を
目にしたのである。


画像


ブライアンの死については
検死審問で“不慮の死”とされた。


「自殺者はそれ相応の場所を慎重に選ぶもので、
納屋の中ならともかく、
小牧場の地べたで死んでいたのであれば
猟銃事故の可能性が高い

鳥泥棒を狙って撃った銃が暴発したか、
引き金に何らかの欠陥があったのではないか」


これが評決理由であった。
   
妻のベサンは一応評決には納得したものの
何しろ亡き夫の失敗が原因とはいえ
直前に彼を罵倒したことが記憶に蘇り
内心では、たぶんブライアンは
“自殺した”のではないか?と感じていた。


スッキリしない心情を抱えたまま、
それでも葬式を済ませ2ヶ月3ヶ月・・・とすぎてゆくと
両親や村の人々の励ましもあり
少しずつ平穏な毎日を取り戻していった。

画像


そんなある日。

ブライアンの死から半年たつかたたないかぐらいの
5ヶ月を過ぎた頃
から
奇妙な現象が起こり始めた。

寝入りばな、
ウトウトとしていたベサンの耳に
かすかな口笛の音が聞こえる

最初は誰かが夜の散歩でもしているのかしら、とも思ったが
それにしては
いつまで経っても口笛の音が止まない。
落ち着かず用心のため家中の鍵を点検に動き回っても
ずっとその口笛は、同じ大きさ・強さの音で
まるでベサンにぴったりくっついて
移動している
ような一定した音量なのだ。

おまけにその口笛が聞こえるようになって数回目に
今度は、コツ、コツ、コツ・・・という、
指先で軽く家具を叩くような小さな音

口笛と合わせて聞こえてくるようになった
のである。

そしてその怪音は
必ず夜、寝室で聞こえだす
のだ。

ベサンにはピンときた。

――・・・ブライアンだわ。夫の幽霊に違いない。

生前の彼は、
夜通し飲み遊んだり、女遊びをしてきたりなど
後ろめたいことをして帰ってくると、
決まって誤魔化すように
小さく口笛を吹きながら帰宅するクセがあった。
それにコツコツ、という音もブライアンのクセの一つで
よく整理だんすを指の爪で、コツ、コツ・・・と叩いていた
のだ。

彼の死後、聞こえるようになった音は
ブライアンがクセで立てていた音
そっくりだったのである。


画像


最初は、そのうち終わるだろうと思い
聞こえても無視して放っておいたが
怪音現象は一向に止まず、
回数も1週間に一度程度だったものが
週に2度、3度と増え
はじめ、また、
鳴っている(聞こえている)時間も10分程度から
しまいには夜明けまで
聞こえ続けるようになってしまった。


2人の子供はまだ幼く、
母親までもが寝不足で満足に働けず
家事もままならなくなってしまったら
家族全員不幸になるだけだ。
ブライアンへの愛情は今もあったが、
子を持つ母として
現実に目を向けねばならない彼女にとっては
幽霊となった夫にまとわりつかれても
迷惑になるだけ
だった。

思い切ってベサンは
夫と暮らした家を出て、村はずれの
小さなコテージへ引っ越した

元の家からそれなりに距離はあったし、
気分的にもけじめが付いて生活に張りが出るだろう、と
考えた末の行動だったが・・・

しかし引っ越してから3ヶ月後。
またしても口笛とつま先で叩くコツコツ音が
鳴り始めた
のである。

しっかり者のベサンは
必要以上に怯えたりしなかったが、
このままじゃ私や子供たちだけでなく、
死んだブライアンにだって良いことはないだろう---
そう強く思い、
教区担当のJ.I.ロバーツ牧師に連絡、相談。

助けを求めた。

画像


話を聞いたロバーツ牧師は
ベサンの話は終始冷静で筋が通っており、
混乱した様子がないことや、
幽霊の姿は見えないが、ほぼ夫だと確信していて
恐怖も見られないこと等をふまえて
この件の時も、霊媒として
エルウィン・Rに協力
してもらった


エルウィンは、ロバーツ牧師の依頼時には
霊媒能力者として
仕事をこなすが
普段の彼は、れっきとした
科学技術調査や分析を専門とする学者
であり、
社会でも公的資格を持つ職
なので
初対面の依頼人から信用を得る点でも、
ロバーツ牧師にとって彼は
非常に有用な存在であるという。

そして、狂いのない的確な仕事ぶりは
霊媒師の面でも変わらない、立派なものだ。

ロバーツ牧師がエルウィンを伴って
夜、ベサンの家を訪問。
ブライアンが出現する時刻を待ちながら
詳しく話し合っていると、突然、

「今、夫が・・・ここにいます!」
     
と、少し驚いてベサンが言った


画像


その言葉を受けて、
すぐさまエルウィンが霊視を開始。
彼女の言葉が真実である
ことを
ロバーツ牧師に伝えた。

「今までは幽霊が視えない、という話でしたが?」

ロバーツ牧師がベサンに訊くと
エルウィンは

「いいえ、こういうことは珍しくありません。
その場だけでも、一時的に
霊媒師の余力(余波長)を受けた影響で
視たり聞いたりする
ことがあるんです」


と説明
した上で、

「彼女はとても落ち着いてしっかりしているし、
今、ご主人の霊の姿を視ても
パニックを起こさず、事実を受け止めています
から、
ここは
私が間に入ってご夫婦の会話を助けるよりも
お互い直接話し合った方がよい
でしょう・・・」

そう言うと、
大きく呼吸を2、3度整えた。

すると5分も経たないうち、目で見て判るくらいに
それまで背筋をピンと伸ばし緊張した面もちだったベサンが
すっかりくつろいだ風になって、
表情がとても穏やかに変化
していったのである。

ベサンの邪魔にならない小声でエルウィンは

「今、二人で交信しています。
この件は、どうやら、今日で解決しそうですよ」


とロバーツ牧師に伝えた。

そして本当に、
その通りの結果になった
のである。

画像


後日、
未亡人ベサン・Jは言う。

「あの夜、ブライアンは伝えてくれました。

“俺は自殺したんだよ”と。

さらにこうも言ってくれました、

“何も考えずにあんな愚かなことをしてしまい、
すぐに後悔したんだ。
それを君(ベサン)に釈明しなければと
思いが募って駆り立てられるように亡霊として現れて
あやまちを詫びようとした。”

私は、
だったら何で声にして話してくれなかったの?
と質問し
たら、ブライアンは

寝室へ訪れる度に、賢明に大声を張り上げ
振り絞って叫ぶように話しかけていたが、
自分の声は、まったく届かないんだ
”。


・・・この辺のことは
私は霊媒じゃないから分からないんですが、
なによりも、ブライアンのメッセージを
そのまま受け取ることができて嬉しい・・・というか、
ホッとしています。
これでブライアンも安らげるでしょうし、
私も子供たちも、
これからの生活を平穏に暮らしてゆけるでしょう。
・・・牧師様とエルウィン霊媒師には心からお礼を申し上げます。
私を暖かく包み、
穏やかな気持ちにして下さった
おかげで
ブライアンとは笑顔でお別れすることができました・・・」。

画像


ロバーツ牧師は言う。

「あの時、幽霊が視えなかったのは
私一人だけだったのだが、
空気感が普通でなかったことは判ってました。
また、エルウィンが呼吸を整えた後
ベサンが催眠術をかけられたように
すっかりソファの上でくつろいだ姿勢になり
穏やかな表情で、健康そうな顔色に変化した
ことには
本当に驚嘆しました。
エルウィンは科学者であるが
霊媒師としても、
実に優秀なプロ意識
で取り組んで
くれました」。

そして

エルウィンが予言したように
この心霊事件は1度の訪問で、すっかり解決。


以後

対策を講じることもなければ
その後の報告も、無いとのこと。

画像


1960年代、
英国ウェールズのランゲヴニ地区での
心霊事件であった。